『ぼくはビート』
初出誌 各項目参照
<単行本>
角川書店 1988年(昭和63年)8月20日発行
257頁/ISBN:4-04-872502-5
<文庫本>
角川文庫 1991年(平成3年)5月25日発行
210頁/ISBN:4-04-171002-2
解説/永倉万治
<文庫本>
幻冬舎文庫 1997年(平成9年)6月25日発行
225頁/ISBN:4-87728-478-8
あとがき 226〜228頁 解説/小沢瑞穂
山田詠美の単行本としては10冊目にあたる作品集。10編の短編小説が収められており、いずれの作品にも英語のタイトルが付けられている。初出誌を見てみると、『エル・ジャポン』や『エフ』『an an』といった女性誌から、『別冊文藝春秋』『小説新潮』『三田文学』のような文芸誌まで幅広いジャンルの雑誌に掲載された作品が集められており、山田詠美が多くの層の読者に支持されていることがわかる。

「X-RATED BLANKET 成人向き毛布」 初出誌『エル・ジャポン』1988年5月5日号 134〜135頁

特に大きなストーリー展開はなく、ジョージと私の体のつながりを、まるで音楽を奏でるかのように描いたショーとショート的作品。なおこの作品は英訳されている。

「YOU KNOW WHO」 初出誌『別冊文藝春秋』1987年181特別号(10月) 44-54頁
クラブに勤めるラスコーは、ソーニャという恋人がいながらも、強烈な魅力を持ったジョイスに夢中になる。彼女には多くの取り巻き連中がいたが、ラスコーはそれでも彼女のことを想わずにはいられなかった。

「BLACK SILK 黒い絹」 初出誌『エフ』1987年8月号 185-192頁

仕事を持ち、自分を完璧にいたわれるほどにお金を稼ぎ、人生の憂鬱を少しばかり知っているマリアは、女友達の紹介で、パーしーという若くてとびきり美しい体を持った貧乏な苦学生の黒人と知り合う。マリアは彼に初めて会う前に電話でドレスアップをして来なさいと言ったが、ウェイティングバーに現れた彼は、砂色の麻のスーツに趣味のよいタイを結んでいたが、上着の下にはシャツを着ていなかった。彼の肌が黒い絹のシャツなのだ。彼女は彼に恋をしてしまった。

なお、この作品は山田詠美編オムニバス小説集「せつない話」(光文社)及び、温水ゆかり編のオムニバス小説集「リエゾン」に収録されている。

「My Heart In Rhyme 僕の愛は韻をふむ」 初出誌『小説新潮』1988年2月号 54〜64頁
一年間同棲生活をしているバニーとフィリスは一日に一度けんかをして別れるが、すぐにふたりは仲なおりをし、一日に一度は再会することになる。ラッパーのバーニーはいつも韻を踏んでいる愛の言葉を探していた。

「Double Joint ダブルジョイント」 初出誌『野生時代』1988年1月号 26〜32頁
昔の女に電話で語りかえるようにして綴られるモノローグ形式の小説。まるでラップを歌っているように文章にリズムがある。朗読会などで読んだら面白いだろう。

「Closet Freaks クロゼットフリーク」 初出誌『an an』1987年2月12日号 31〜33頁

クロゼットフリークとは、普段は地味な目立たない服を着ているあか抜けない女が、実は自分の部屋のクロゼットに数え切れないほどの大胆なドレスを隠し持っているという意味の言葉だ。これは主にベッドの上で使われる言葉で、何も知らないような顔をしているが、ベッドの上では大胆なことをする女のことをさしている。レディスマン(遊び人)のDがクラブで声をかけた女はまさにそんなクロゼットフリークだった。

「Birthday Party Was Mad 誕生日」 初出誌『オール讀物』1987年12月号 68〜77頁
ゆりちゃんの誕生日を祝うために渋谷のなじみのバーに集まった個性的な人々を描いた、ユーモアに溢れた作品。ゆりちゃんはロバート、通称ロバちゃんという黒人の恋人を連れて来るが、これは後に発表される「ラビット病」の主人公と同一人物と思われる。当時の文壇の裏話的な雰囲気を持った異色作。これを初めて読んだ時、正直私は詠美がおふざけで書いたのではないかと思ったが、改めて読み直してみると、登場人物たちに対する詠美の愛が感じられる作品であることに気づいた。

「GREEN」 初出誌『三田文学』1988年春季号(5月) 42〜51頁
深夜のN,Y,の24時間営業のレストランを舞台にした小説。くたびれた白人の中年男性が、美しい黒人の男娼を買う話である。まるで読者がその場にいるかのような臨場感がある傑作。この頃、詠美はよくN,Y,に滞在しており、エッセイ「セイフティボックス」にも、深夜のカフェでトルーマン・カポーティ的な気分を味わっている様子を書いている。


「Taste Of... ぼくの味」 初出誌『小説すばる』1987年12月号 10〜24頁
彼女にとって良い男の匂いや良い男の味とは一体どのようなものなのだろうと悩む「ぼく」を描いた作品。初出誌の『小説すばる』には詠美自身の写真と共に掲載され、話題を呼んだ。


「I AM BEAT ぼくはビート」 初出誌『オール讀物』1987年9月号 234〜250頁
ある朝二日酔いの頭で目覚めると、ニッキは大切にしていた黒いソフト帽がなくなっていることに気づき、慌てた。それは昔愛したウェインのものだった。恐らく昨夜の男、ジーポが盗んだに違いない、とニッキは思った。その帽子が再びニッキのもとに戻ってくるまでの物語である。