『指の戯れ』
初出誌 「文藝」1986年(昭和61年)春季号 38〜67頁
<単行本>
河出書房新社 1986年(昭和61年)4月30日発行
141頁/ISBN:4-309-71051-4
<文庫本>
河出文庫 1987年(昭和62年)8月20日発行
157頁/ISBN:4-309-40198-8
解説/渡部直己
<文庫本>
新潮文庫 1996年(平成8年)11月1日発行
314頁/ISBN:4-10-103617-9
解説/浅田彰 「ベッドタイムアイズ」「ジェシーの背骨」併録
山田詠美の第2作目の中篇小説。

舞台となるのは日本のとある町で、具体的な地名などは一切明かされていないが、主人公であるルイ子が女友達と行くクラブの様子などからすると、米軍基地のある町、あるいは赤坂や六本木のような外国人の集まる町と思われる。

物語は、ルイ子の前に2年前に短い間つきあっていたリロイ・ジョーンズが戻ってくるところから始まる。

2人が付き合っていた頃、リロイは南部訛りが強く、無粋な男で、洗練された都会的なルイ子とは不釣合いなほどだった。ルイ子はリロイを奴隷のように扱い、ついに彼女は彼を捨てる形で彼と別れ、今はD・Cという恋人がいる。そのルイ子の前に2年ぶりにあらわれたリロイは、有能な若手のジャズ・ピアニストとして成功し、無粋だったときの面影すらなかった。そして、今度はルイ子の方がリロイの奴隷になっていく。衝撃的な結末が待っている。

タイトルの「指の戯れ」とはもちろん、ピアニストであるリロイの指がピアノの鍵盤を叩くことをさしているが、同時に彼の指はルイ子の体を、そして心をも撫でていく。詠美自身の解説によると、当初リロイはサックス・プレイヤーという設定だったらしい。

ベッドタイムアイズ同様、比較的短い中篇小説であるが、随所にソウルミュージックがなどが散りばめられ、詠美のソウルミュージックへの愛着が感じられる一作となっている。