『放課後の音符〈キーノート〉』
初出誌 各項目参照
<単行本>
新潮社 1989年(平成元年)10月10日発行
180頁/ISBN:4-10-366803-2
あとがき 181〜182頁
<文庫本>
角川文庫 1992年(平成4年)11月10日発行
180頁/ISBN:4-04-171004-9
あとがき 181〜182頁 文庫版 あとがき 183〜184頁 解説/氷室冴子
<文庫本>
新潮文庫 1995年(平成7年)3月1日発行
185頁/ISBN:4-10-103615-2
あとがき 186〜187頁 解説/堀田あけみ
<英訳文庫本>
講談社英語文庫 1992年(平成4年)12月15日発行
166頁/ISBN:
英語版タイトル 『After school keynotes』 翻訳/Sonya L.Johnson
私が初めて読んだ山田詠美の小説がこれである。社会人一年の時に、大学時代からの文学好きの女友達から、これ読んでみなよ、と何気なく薦められて読んでみたのだ。

山田詠美のことは知ってはいたが、それまでは単なる黒人とのセックスばかり描いているスケベな作家という認識しかなかった。それだけにこの本を読んだ時は、目から鱗が46枚ほど落ちたみたいだった。そして、これを読んだその週の週末に神田の三省堂でAmyの小説を全部買い揃えた。(前から一度同じ作家の小説を全部買うっていうのをやってみたかったのだ!)

この本はできれば単行本で読んで欲しい。パラフィン紙を利用した装丁がとても洒落ている。

Oliveに連載されていただけあり、主人公は女子高生。しかし、大人が読んでも十分楽しめる。これを高校時代にリアルタイムで読んでいたら、人生変わっていたかもしれない、と思っていたら、新潮文庫の解説で堀田あけみも似たようなことを書いていて、そう思っている人は多いかもしれない。

会社に勤めていた頃、バレンタインのお返しに「スウィートなものよりもスパイシーな方がいいでしょ?」とこの本を女子社員に配った。自分ではなかなか粋なことをしているなぁなんて思ったんだけど、電車の中で読んでいたら、最初の一文で恥ずかしくなって閉じちゃった…とほざくバカ女がいて、所詮この会社の程度ってそんなもんなのよねぇ。って心の中で思い切り軽蔑したことも今となっては良い思い出だ。

とまれ、この『放課後の音符』は、今まで詠美を読んだことのない人にオススメしている数冊の本の中の筆頭にあげられる本。
ちなみに、Oliveでは1話分が隔週刊の4回にわたって連載されていたので、卒論の目録作りの時にページ数を調べるのに、世田谷中央図書館に行き、その頃のOliveを全部出してもらってチェックした。ものすごく大変だった!これぞまさしくオタク魂!

なお、主な参考文献として以下のものがある。

*「やさしさを越えた危険な小説」
 ねじめ正一 『波』 1989年10月号 18〜19

*「大人の女になるための読書ファイル 20代に読みたい名作 52回 
 山田詠美『放課後の音符』 角川文庫 美しい言葉」
 林真理子 『CREA』 2002年3月号 204頁

「Body Cocktail」  
初出誌 1988年(昭和63年)「Olive」
●2月18日号 164〜165頁 ●3月3日号 156〜157頁 
●3月18日号 156〜157頁 ●4月3日号 188〜189頁
 


「私」(『放課後の音符』全編を通して登場する主人公)のクラスメイトのカナは17歳だけど、もう男とベッドに入ることを日常にしていた。そんな彼女が赤ちゃんができたために学校を辞めると私に打明ける。

「SweetBasil」 
初出誌 1988年(昭和63年)「Olive」
●4月18日号 164〜165頁 ●5月3日号 180〜181頁 
●5月18日号 150〜151頁 ●6月3日号 156〜157頁


リエが私と幼なじみの純一のことを好きなことに「私」は気づいていた。「私」は純一がリエの視線に気づいて欲しくなくて、リエに冷たくするが、ある時、2人の視線は出会ってしまう。

「Brush Up」 
初出誌 1988年(昭和63年)「Olive」
●6月18日号 132〜133頁 ●7月3日号 156〜157頁 
●7月18日号 124〜125頁 ●8月3日号 140〜141頁

帰国子女の雅美は、高校からアメリカンスクールに移り、中学時代一緒だった「私」の家に久しぶりに遊びに来る。しばらく会っていない間に彼女はファッショナブルになっていて、「私」はびっくりしてしまう。この中の「私」と雅美の会話にはAmyの恋愛観があらわれている。しかも、雅美がくそみたいな中学時代に別れを告げるシーンや、ブロウジョブを体験したという雅美を「肉食人種」と呼んだりするところなど、笑ってしまうところも多い。

「Crystal Silence」 
初出誌 1988年(昭和63年)「Olive」

●8月18日号 140〜141頁 ●9月3日号 194〜195頁 
●9月18日号 140〜141頁 ●10月3日号 156〜157頁


僕個人としては、『放課後の音符』の中で一番好きな話。他の女の子たちとはちょっと違う、大人びた雰囲気を持つマリは、夏休みに沖縄のはずれの島で、耳も聴こえない、口もきけない男の子と恋をする。読んでいる方も胸の奥がキュッとなるような切ないラブストーリー。

「Red Zone」 
初出誌 1988年(昭和63年)「Olive」

●10月18日号 152〜153頁 ●11月3日号 172〜173頁 
●11月18日号 132〜133頁 ●12月3日号 148〜149頁


年上の女性にボーイフレンドを取られたカズミは、彼がその女性と一緒にいるところをみかける。その女性が自分の描いていたワンパターンの年上の女のイメージとはかけ離れた魅力的な女性だったため、カズミは自分も彼女のように赤い口紅が似合うようになったら、彼をものにしてみせると決心する。本当の意味での大人とは何かを考えされせられる。

「Jay-Walk」 
初出誌 1988年(昭和63年)「Olive」
●12月18日号 148〜149頁 
1989年(平成元年)「Olive」

●1月3日号 140〜141頁 ●2月3日号 128〜129頁 
●2月18日号 148〜149頁


教室の掃除はしない、他人の男は横取りする、という悪名高きヒミコ。「私」はひょんなことから、ヒミコと夜の街に出ることになる。ここでもまた上等の大人、素敵な女性になるための秘訣が会話の形で交わされる。

「Salt and Pepa」
 
初出誌 1989年(平成元年)「Olive」
●3月3日号 140〜141頁 ●3月18日号 124〜125頁 
●4月3日号 164〜165頁 ●4月18日 124〜125頁


卒業式間近の放課後の音楽室で、「私」はカヨコ先輩が音楽の松山先生と一緒にいるところ偶然目撃する。2人の描写がとても美しく描かれている。
ここでも恋に関するドキッとするような台詞がある。
「私も素敵な恋がしてみまちあなぁ」
「あなた、素敵素敵って言うけど、素敵な恋は、悲しい気持をひきずっているのよ」

「Keynote」 
初出誌 1989年(平成元年)「Olive」
●5月3日号 158〜159頁 ●5月18日号 124〜125頁 
●6月3日号 132〜133頁 ●6月18日 116〜117頁


ついに「私」が「Sweet Basil」に登場した純一くんと結ばれる。「私」の父親っていうのがまたいいんだよなぁ。彼は娘に言う「待つ時間を楽しめない女に恋をする資格なんてない」と。この『放課後の音符』を最初からOlive上でずっと読んでいた女子高校生たちはきっと今頃素敵な女性になっているに違いない…。