『トラッシュ』
初出誌 下記一覧参照
<単行本>
文藝春秋 1991年(平成3年)2月15日発行
442頁/ISBN:4-16-312370-9
<文庫本>
新潮文庫 1994年(平成6年)2月10日発行
596頁/ISBN:4-16-755801-7
解説/宮本輝
『文學界』に約一年半にわたり連載された山田詠美初の長編小説である。「ジェシーの背骨」の続編的作品であり、ココとその恋人であるリックの関係を軸とした人間群像がニューヨークを舞台に描かれている。

両者は設定は似ているものの、いくつかの相違点をあげることができる。

まず、物語の軸となる人物が違う。「ジェシーの背骨」は主にココとリックの連れ子であるジェシーの関係を描いているのに対し、「トラッシュ」はココとリックの関係が大きな要となって物語が進められている。

さらに「ジェシーの背骨」は登場人物を極力少なくすることにより、ココとジェシーの関係をより際立たせていたが、「トラッシュ」ではココを取り巻く人物を数多く登場させ、様々な人間模様を描き出している。

「ジェシーの背骨」では具体的な地名は一切明かされてなかったが、「トラッシュ」はニューヨークを舞台にしているこをと明確に示すことにより、物語によりリアリティを与えている。

この作品を読んでまっさきに思い出されるのは、詠美自身も好きだと述べているジェイムズ・ボールドウィンの「もう一つの国(Another Countory)」である。この作品は黒人であり、ゲイでもあったボールドウィンの半自伝的長編小説である。「トラッシュ」と同様に二部構成となっており、ニューヨークが舞台である。詠美がこの作品を意識しながら「トラッシュ」を執筆していたことは想像に難くない。

「トラッシュ」はいろいろな読み方のできる作品である。多くのテーマが内包されており、読者は自分なりに作品のテーマをその中に求めることができる。ここトリックをめぐる男女の恋愛、人種差別の問題、ゲイに対する偏見、友人との関係について、そして、詠美の作品全体に共通する心と体の関係について、といったテーマを、多くの登場人物といくつものエピソードを通して分析しているところにこの作品の大きな意義がある。

なお、本作品は第三十回女流文学賞を受賞している。
初出誌一覧

『文學界』1989年5月号 18〜89頁
『文學界』1989年6月号 184〜201頁
『文學界』1989年7月号 144〜162頁
『文學界』1989年8月号 272〜289頁
『文學界』1989年9月号 286〜302頁
『文學界』1989年10月号 324〜340頁
『文學界』1989年11月号 334〜351頁
『文學界』1990年1月号 336〜352頁
『文學界』1990年3月号 326〜342頁
『文學界』1990年4月号 326〜334頁
『文學界』1990年5月号 344〜354頁
『文學界』1990年7月号 356〜366頁
『文學界』1990年8月号 342〜352頁
『文學界』1990年9月号 322〜332頁
『文學界』1990年10月号 264〜274頁
『文學界』1990年11月号 290〜300頁
『文學界』1990年12月号 350〜365頁