『晩年の子供』
初出誌 各項目参照
<単行本>
講談社 1991年(平成3年)10月7日発行
199頁/ISBN:4-06-204925-2
あとがき 210〜211頁
<文庫本>
講談社文庫 1994年(平成6年)12月15日発行
214頁/ISBN:4-06-185829-7
あとがき 215〜217頁 解説/中野翠
子供をテーマとした短編が収録された短編小説集。『色彩の息子』と同時期に書かれており、この作品集も『色彩の息子』と同様、山田詠美の純文学的路線の流れを汲んでいる。

子供というと、我々はつい、純真で無垢な面ばかりを見てしまうが、実際に自分の子供の頃を思い出してみると、決して純真無垢なばかりではなかったことに思い当たる。子供は大人が想像する以上に残酷で冷酷な面を持っている。詠美はこの作品集の中で、そのような子供の一面を赤裸々に描き出している。

山田詠美が子供時代、いかに冷静に大人の世界を、あるいは子供の世界を見ていたかがわかり、興味深い。

「晩年の子供」 初出誌 『新潮』 1990年1月号59〜67頁
十歳の夏休みを回想する物語である。犬に噛まれ、狂犬病になると思い込んだ「私」は、六ヵ月後に訪れるであろう死を予想してパニックになるが、犬に噛まれたことを誰にも打ち明けられなかった。子供ながらに死を哲学的に捉えているところが面白い。

「堤防」 初出誌『小説現代』 1990年6月号72〜81頁
小学生の頃、夏休みに海に行った時の話から始まる。ある夕暮れ時、一人で堤防を歩いていた私は、自分が海に呼ばれているような気がして、ふらふらと海に飛び込んでしまう。彼女はそれを運命だと思った。そしてそこから彼女は運命論者となっていく。

「花火」 初出誌『小説現代』 1989年8月号52〜61頁

東京に出て、クラブ勤めをしている姉の様子を見に行ってくれと両親に頼まれた「私」は姉の住むマンションへ行く。姉は既婚の男性と付き合っていた。まだ男性経験のない私はそんな姉のことを軽蔑していた。

「桔梗」 初出誌『小説現代』 1989年10月号36〜45頁
目に映るものがそれまでのものとは少し違って見えるようになってきた七歳の少女の話である。隣の家に住む美しい女性、美代と知り合いになった私は大人の男女の世界を垣間見る。この作品は村上龍編算によるオムニバス小説集『魔法の水』(角川ホラー文庫1993年4月20日 23〜33頁)にも収録された。

「海の方の子」 初出誌『小説現代』 1989年12月号170〜178頁
他の子よりもあらゆる点で上だと思っていた子供の話。転校を繰り返していた詠美の実体験がベースとなっていると思われる。私は転校先の小学校で、クラスで仲間はずれにされている哲夫君と仲良くなる。

「迷子」 初出誌『小説現代』 1990年2月号48〜57頁
小学四年生の時に、男と女の世界はおとぎ話のように簡単には行かないものらしいと悟った雅美の話。彼女の両親はささいなことで喧嘩をしては一晩過ぎるとまた前よりも仲良くなるということを繰り返していた。雅美の隣の家は雅美と同じように二人姉妹の子供のいる家族が住んでいた。その家族に新しい赤ちゃんが加わった。子供たちは妹ができたと喜んでいたが、雅美はその子が本当のその家の子ではないことを知ってしまう。

「蝉」 初出誌『小説現代』 1990年8月号395〜405頁
小学四年生の私はひょんなことからどうやったら子供が生まれるかを知る。家に帰った私は死んだ蝉のお腹をさいてみたが、そこには何も入っていなかったので驚く。

「ひよこの眼」 初出誌『小説現代』 1990年10月号80〜89頁
クラスに転校してきた相沢幹夫は、転校してきた初日から超然とした雰囲気を持っていた。そして、亜紀はいつのまにかそんな彼と仲良くなった。亜紀は幹夫の眼をどこかで見たことがあると思っていたが、それがなんなのか思い出せないでいた。そしてある日、彼の目は、幼い頃にお祭りで買ったひよこの、自分の死を予期しているかのように澄んだ瞳と同じであることに気づいた。