『ラビット病』
初出誌 各項目参照
<単行本>
新潮社 1991年(平成3年)12月5日発行
206頁/ISBN:4-
あとがき 208〜209頁
<文庫本>
新潮文庫 1994年(平成6年)11月01日発行
213頁/ISBN:4-
あとがき 214〜216頁 解説/野中柊
『小説新潮』1989年1月〜1990年11月号に連載された連作短編小説集である。ゆりとロバートというカップルをコミカルに描いた作品で、この二人はすでに『オール讀物』(1987年12月号68〜77頁、後に『ぼくはビート』に収録)に発表された「Birthday Party Was Mad 誕生日」に登場している。

あとがきの中で詠美は「この物語は、あくまでもフィクションである。ほんとだからね!!」と書いているが、限りなく現実に近いフィクションと思われる。

自由奔放なゆりと、それに振り回されているように見えるロバートの様子は第三者から見ると滑稽ではあるが、読者はその背後にある二人の絆の深さを考える必要があるだろう。一見、ふざけて書いているようにも見受けられる作品ではあるが、随所に山田詠美なりの恋愛観や結婚観、人生観などを読み取ることが出来る。

「ラビット病」はゆりがロバートと付き合い始めて一ヶ月たった頃のエピソードから、二人が結婚するまでを描いた、いわゆる恋愛結婚小説だ。詠美は同時期に『野性時代』に「チューイングガム」を連載している。両者は似たようなテーマを持っていながらも、その作風は正反対で、そのその両面性が山田詠美文学の魅力のひとつとなっている。

「GAS」 初出誌 『小説新潮』1989年1月号 50〜59頁
ゆりがロバートと付き合い始めて一ヶ月たった頃、二人は基地の映画館に恐怖映画を見に行った。しかし、その帰りに車のガスがなくなってしまう。

「ボディジャッキ」 初出誌『小説新潮』1989年新春特別号 248〜257頁
ある日、ロバートの昔の女、ミミコがゆりの部屋を訪れる。そのことが原因でゆりは家出をしてしまう。

「ラビット病」 初出誌『小説新潮』1989年7月号 282〜290頁

あまりにも仲の良い二人のことを、ロバートの仲間たちは「ウサギみたいに二匹で寄りそっている」と言っていた。そのことを知った二人は自分たちの主題歌を作ってしまう。二人はある日、ロバートの友人の部屋に呼ばれた。そこには二人の日本人女性がいた。

「みみみ警報」 初出誌『小説新潮』1989年6月号 340〜348頁
ロバートが家に帰ると、ゆりが「ミミミミミ……」とうめいていた。それはロバートがいつもそばにいない時に鳴る警報のようなものだった。

「双子届」 初出誌『小説新潮』1990年1月号 252〜260頁
ある日、二人は横田基地の脇を走る十六号線沿いのラーメン屋に入った。そこで二人は双子の老人と知り合う。その老人たちはゆりとロバートも双子だと言った。

「すあまのこども」 初出誌『小説新潮』1990年3月号 334〜342頁
ある日、ゆりは小さな箱を持ち帰った。その中には一対のすあまが入っていた。ゆりはロバートを愛するあまり、彼を失いたくないと思い始めていた。それが彼女を奇行に走らせるのだ。

「ロバちゃんはママ」 初出誌『小説新潮』1990年6月号 112〜120頁
まるでママのようにゆりの世話を焼くロバートを、ゆりは所帯じみていて嫌だという。ロバートはそれまでゆりを甘やかしていたことに気づき、少しは自立するようにゆりに忠告をする。

「ロバの魂」 初出誌『小説新潮』1990年9月号 (調査中)
ロバートの友人アレックスが日本人の若い男に殴られた。ロバートと人違いされたのである。殴ったのはゆりを崇拝している男の子たちだった。姐御みたいだったゆりが、恋に落ちたといってへらへらしている様子を見て、いい気になるなよ、と思いロバートを殴るつもりが、アレックスを殴ってしまったのだ。

「ロバの魂」 初出誌『小説新潮』1990年11月号 148〜157頁

ロバートと結婚することになったゆりは、感情の浮き沈みの激しい毎日を送っていた。他人からの愛を受け入れることに慣れていない彼女は、ロバートからの愛をどうやって受け止めていいか分からずに悩んでいた。