『ぼくは勉強ができない』
初出誌 各項目参照
<単行本>
新潮社 1993年(平成5年)3月25日発行
232頁/ISBN:4-10-366806-7
あとがき 234〜235頁
<文庫本>
新潮文庫 1996年(平成8年)3月1日発行
241頁/ISBN:4-10-103616-0
あとがき 242〜243頁 解説/原田宗典
ファンの間では「ぼく勉」の愛称で親しまれている連作短編集。
詠美はすでに『放課後の音符』で、高校生の成長していく姿を描いているが、『放課後の音符』が女子高生が主人公だったのに対し、「ぼくは勉強ができない」は時田秀美という男子校生が主人公だ。

彼は生まれた時から父親はいず、派手で恋多き母親仁子と、老いてますますさかんな祖父に育てられた。そのため、他の普通の人間と同じような価値観で物事を判断しない。

詠美がエッセイなどで常々語っているようなことが、時田秀美を通して描かれており、読者はその姿に共感することができる。

本人もあとがきに書いているように、これは現役の高校生のみならず、教育関係者、学校関係者、高校生の子供を持った大人に是非とも読んでもらいたい作品である。

山田詠美自身が書いた「時田秀美の場所」(『AMY SAYS』192〜198頁)も本作品の読解のてがかりとなるだろう。

なお、この作品は1996年に鳥羽潤主演、山本泰彦監督で映画化された。

また、教科書問題などでもしばしば取り上げられる。

主な書評に

*「今月の文芸書『ぼくは勉強が出来ない』」 千石英世 
 『文學界』 1993年6月号 346頁

*「ただいまベストセラー勉強よりも知恵と勇気に富んだ「いまどき」高校生の生態を活写「僕は勉強ができない」」川村湊 『週刊現代』1993年6月12日号112〜113頁

主な論文に

*「デュアル・クリティック山田詠美『僕は勉強が出来ない』背骨のうごく時」新井豊美
 『早稲田文学』 1993年8月号32〜36頁

*「デュアル・クリティック山田詠美『僕は勉強が出来ない』」「女にもてる」と「勉強ができる」ではどっちがいいんだろう」沼野充義
 『早稲田文学』 1993年8月号37〜41頁

などがある。

「ぼくは勉強ができない」 初出誌 『新潮』 1991年5月号6〜16頁
17歳の時田秀美はサッカー好きの少年だ。勉強はできないが、クラスの人気者で、学級委員に選ばれる。その時、秀美は小学校5年の時のことを思い出していた。転校したばかりの学校でクラス委員長を決める時、ある女の子の名前を書いた。ところがその時先生はなぜか激怒した。その時の先生の言動から、秀美は大人を見下すことを覚えた。学級委員長に選ばれた頭が良いだけの脇山茂をもてあそぶ、秀美の幼馴染の真理、秀美が尊敬する桜井先生、秀美の恋人である桃子さんなど、魅力的な人物が次々と登場する。

「あなたの高尚な悩み」 初出誌 『新潮』 1991年7月号180〜190頁
秀美と同じサッカー部の植草は、頭は良くないが、いつも難しい言葉を使い、物知りだと評判だった。植草は貧血症の黒川礼子と付き合っていたこともあるが、彼女が貧血で倒れそうになった時も難しいことばかりを言っていたために、二人は別れてしまう。そんな植草がサッカーの練習中に足を骨折する。

「雑音の順位」 初出誌 『新潮』 1991年8月号232〜242頁
秀美のクラスメイトの後藤が突然政治家になると言い出した。米軍基地のある市に住んでいる彼は飛行機の音がうるさいと訴える。そのことからクラスメイトたちは身の回りの雑音の話を始める。秀美がある夜、桃子さんの部屋に行くと、中で人の気配はするのだが、ドアは開かなかった。後から桃子さんの昔の恋人が来ていたことを知る。

「健全な精神」 初出誌 『新潮』 1991年11月号143〜153頁
秀美は、六本木のクラブで教師とはち合わせをしてしまい、一ヶ月の停学処分になった真理の家に遊びに行く。桃子さんと別れた秀美は真理から精神が健全過ぎると言われる。秀美はサッカーの練習に没頭する。

「○をつけよ」 初出誌 『新潮』 1992年1月号286〜295頁
ある小春日和の祭日、秀美は母と祖母とテレビのワイドショーを見ていた。そこでは一般の家庭の主婦が喜びそうな事件を報道していた。ある時、秀美は廊下を歩いている時に、コンドームを落としてしまい、それを佐藤先生にみつかり怒られる。

「時差ぼけ回復」 初出誌 『新潮』 1992年4月号176〜186頁
風邪をひき学校を休んだ秀美の家にクラスメイトの田嶋が見舞いに来た。田嶋は秀美に二人の親友だった片山がマンションの屋上から飛び降り自殺をしたことを伝えた。

「賢者の皮むき」 初出誌 『新潮』 1992年8月号162〜171頁
クラスのベストスリーと呼ばれるほど可愛い山野舞子は確かに可愛いが、秀美はそんな彼女がわざとお茶目を装っているような気がしてなrなあかった。彼女に夢中だった川久保は自分の想いを告白しようとするが、いざとなるとそれができず、秀美に伝えてもらう。ところが山野舞子は秀美を好きだと言い始めた。

「ぼくは勉強ができる」 初出誌 『新潮』 1992年12月号168〜178頁
時田秀美は大学に進学するべきか就職するべきか悩んでいた。そんな時、秀美の祖父が倒れてしまう。

「番外編・眠れる分度器」 初出誌 『文藝』 1991年秋号・冬号
『ぼくは勉強ができない』は「新潮」で連載されていたが、この番外編のみ「文藝に2号にわたり掲載された。内容も秀美が小学生の時に転校したばかりの頃のエピソードだ。まだクラスになじめない秀美や、彼を見守る母、祖父、そしてそんな家族とは価値観の違う奥村先生の様子などが描かれている。ここに出てくる給食であまったパンを持ち帰る貧しい家の少女のエピソードは、「ひざまずいて足をお舐め」にも登場する。(新潮文庫版181頁を参照)