『24・7(トウェンティフォー・セブン)』
初出誌 各項目参照
<単行本>
角川書店 1992年(平成4年)3月30日発行
186頁/ISBN:4-04-872693-5
あとがき 187〜189頁
<文庫本>
幻冬舎文庫 1996年(平成8年)4月25日発行
160頁/ISBN:4-87728-447-8
あとがき 162〜164頁 解説/光野桃
1992年に角川書店より刊行された短編小説集である。この短編集は、何かのテーマに沿って、ひとつの雑誌に書かれた作品を集めたわけではなく、何冊かの雑誌や本に発表された作品を収録したものである。

詠美はあとがきで「大人の不慮の事故を集めてみた」と書いている。大人の男と女が、様々な場所で、様々なシチュエイションで、図らずも恋に落ちてしまう。詠美はその瞬間を鮮やかに切り取り、読者の前に提示してくれるのである。

あとがきで詠美はこうも言っている「人は、いちにちじゅう恋について考えているわけにはいかない。(中略)けれど、いちにちじゅう恋を皮膚の上に載せていることは可能である。と、言うより、恋に落ちた人間は、そうせざるを得ないのである」

よく「私、詠美さんの小説に出てくるような素敵な恋愛をしたいの」という人がいる。しかし、恋というのは、しようと思ってできるようなものではない。図らずも落ちてしまうのが恋なのである。つまり、恋というのはアクシデントのようなものだ。そういったいくつかのアクシデントを繰り返すうちに人は「恋を皮膚の上に載せる」ことができるようになる。

この作品集はそんな大人のための、もしくはいつかそんな大人になりたいと思っている若い読者のための短編集なのではないだろうか。

「ヒンズーの黒砂糖 Brown Sugar of Hindu」 
初出誌 『月刊プレイボーイ』 1987年7月号96〜100頁
夫と南の島を休暇で訪れているフランス人女性の話である。情事の好きな二人別々に行動をし、それぞれの恋を素早く終えるとお互いのベッドに戻り、疲れた会話を楽しんでいた。そして、妻の方はあるホテルのボーイと情事を楽しむ。島の名前は明記されていないが、チャンディ・ダサという地名が出てくることや、「ヒンズーの黒砂糖」というタイトルから、この作品の舞台はバリ島であることがわかる。なお、単行本の初出誌は『月刊プレイボーイ』1988年7月号となっているが、これは間違いである。

「ピンプオイル Pimp-oil」
初出誌 『すばる』 1988年6月号82〜95頁

年下の男、ボビーと私の物語である。男と女の間をスムーズに結び合わせる方法とは何かを二人の会話から読み取れる。

「HER」 初出誌 『角川グリーティングブック』 (調査中)
インドの砂漠を舞台にした美しい恋愛小説。行きずりの男とキスをしたり、時には寝てしまうような妹を持ったロッドニーは、取材のために砂漠に行くことになった。その取材に同行した妹が車の運転手といつの間にか抱き合っているのをロッドニーは目撃する。

「前夜祭 Wedding Eve」 
初出誌 『エル・ジャポン』 1989年5月5日号68〜169頁

結婚を翌日に控えた恋多きまみ子のために6人の男友達が集まった。それは愛すべき送別会となった。

「個人の都合 His way things were going」
初出誌 『With』 1989年9月号257〜259頁

ニューヨークに住むゲイを、ストレートのカップルの視点から描いた作品。ジェンダーについて考えさせられる。

「甘い砂。 Sweetest Sands」
初出誌 『スタジオボイス』 1990年3月号18〜27頁

タヒチに来ていたメラングが、ジュリアと一緒に暮らし始めて二ヶ月がたっていた。そこへメラングの親が決めた婚約者のクリストフが休暇を取って来た。人間にとって本当に価値のあるものとは一体何かを問う作品。

「24・7(トウェンティフォー・セブン)」
初出誌 『月刊カドカワ』 1991年10月号98〜107頁

香坂はあるバーで、魅力的な女性、リサと知り合い、恋人同士になった。しかし、リサの愛はあまりにも激し過ぎた。

「口と手 Between Lips and Hands」
初出誌 『文學界』 1992年1月号146〜155頁

既婚者同士の律子と香川は、お互いに性的に惹かれあいながらも、口と手だけで関係を結んでいた。しかし、律子はある時、二人の関係がそれだけではなくなってしまったことに気づいた。

「息を埋める Hold his breath buried」
初出誌 『野性時代』 1992年3月号174〜182頁

ジャマイカで出あったアメリカ人とオーストリア人の夫婦の話し。日本人女性の主人公の夫がアフリカ系アメリカ人であることから、これは山田詠美自身の実体験に基づいた作品と思われる。(詳しくは「再び熱血ポンちゃんが行く!」内「思わぬ休暇―妹の結婚式に思ったこと」参照。